今日で・・・終わる。いや、本当は今日から始まるんだろう。私たちの場合。でも・・・明日からは、違う毎日になる。そういう意味では、やっぱり終わりを意味するんじゃないのかな・・・。



「ありがとうございました・・・!!!!」



私たち1・2年が全員で、3年生にそう伝えた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・今日は、先輩方の引退式。
明日からは、2年の私たちが部の中心になるんだ。だから、しっかりしなきゃならない。そう思ってはいるけれど・・・。
・・・・・・・・・私には無理だった。



「みんな、俺らが居ーひんくなって、寂しいやろ?」

「・・・・・・いえ・・・別に。俺たちが部を引っ張っていくので、安心して辞めてください。」

「日吉・・・。そこは嘘でも、寂しいって言わんと・・・。俺らが寂しいわ。」

「諦めろ、侑士。日吉には、何言っても無駄だ。」

「でも、たしかに心配は要らないよね。」

「うんうん、滝の言うとおり!日吉たちなら、任せられるよね!」

「つーか、お前の場合、部にいるときから、寝てただけじゃねぇーか。」

「宍戸、ヒドーイ!そんなこと無いC〜!!」

「でも、宍戸さんとペアを組んだり、先輩方と一緒に練習できる機会が減るわけですから・・・。やっぱり、俺は寂しいです。」

「ウス・・・。」

「何言ってんだ、長太郎、樺地。別に俺らは卒業するわけじゃねぇんだし・・・。やろうと思えば、いつだって練習できるだろ。それに、俺は引退しても、扱きに来てやろうと思ってたぜ?」

「ですが、宍戸さん・・・。」

「それは助かりますが。これからは、俺らの部ですから。あまり、頻繁には来すぎないようにしてください。」

「若・・・。」



そんなやり取りをされながら、皆さん楽しそうに笑っていらっしゃった。
ここは、正レギュラー専用の部室。引退式は終わって、先輩方が使っていたロッカーなどを掃除されていた。そして、これからも使う鳳くん、樺地くん、日吉くん、マネージャーの私がそのお手伝いをしていた。
私は、少しでも寂しい気持ちを紛らわしたくて、掃除に集中をしていた。そのおかげで、自分の分担はもうすぐ終わりそうだった。・・・でも、その所為で、また寂しさが戻ってきていた。



ちゃん、さっきから静かやなぁー。やっぱり、ちゃんは寂しいと思ってくれてんの?」

「はい。もちろんです。とても寂しいです・・・。何だか、先輩方との繋がりが薄くなってしまいそうな気がして・・・。」

「ほら、見てみ!日吉!ちゃんを見習ったら、どうや!」

「・・・そうですね。とても残念です。」

「いや、日吉・・・。たしかに、侑士は無茶言ったけどよ。その棒読みは、どうなんだ・・・?」



向日先輩のツッコミに、先輩方はまた楽しそうに笑っていらっしゃった。
でも、やっぱり・・・私には、引きつった笑いしかできなかった。



「お前ら、口ばっか動かしてねぇで、さっさと手を動かせ!まだ、終わんねぇのか?」

「もう跡部は終わったの?やるねー。でも、今日ぐらい、いいんじゃない?」

「そうだな。今日ぐらい、いいだろ。最後なんだし。」

「滝も宍戸も、何言ってやがんだ。最後だから、ちゃんとしろってことだろうが。・・・もう、俺は終わったから、先帰るぞ。」

「えぇー!!跡部、帰っちゃうの?!寂C〜!!」

「・・・何が寂しい、だよ。別に一生会えないわけでもあるまいし・・・。とにかく、俺は帰るからな。」



その声は、いつも通り凛々しい跡部部長のものだった。・・・この声を聞くのも、これで最後。というわけじゃないのは、わかってる。跡部部長は生徒会長でもあるから、事ある毎に聞くこともできるだろう。・・・そうだとしても。直接お話できる機会は、確実に減るわけで。特に、跡部部長はファンの方も多いから、引退された跡部部長と私なんかが話してたら・・・・・・・・・。
でも、たとえ私の身に何があろうとも、私は跡部部長とお話したい。それぐらい、私は跡部部長が好きだ。・・・ただ、それでは私が良くても、優しい跡部部長に迷惑をかけてしまう。それは嫌だ。
跡部部長と私は、もう部長とその部のマネージャー、という関係じゃなくなる。それが・・・私には、とてもとても大きな問題なんだ。



「ちょっと待ち、跡部!せっかくやし、ここで、もうちょい盛り上がろうや。」

「いいですね!俺、何か買出しに行きますよ!」

「ウス!」

「お前ら・・・せっかく掃除したのに、また散らかすつもりか。」

「じゃあ、跡部ん家でやろうぜー!」

「向日・・・、お前何言って・・・。」

「それ、E〜じゃん!!ねぇねぇ、そうしようよ〜、跡部ー。」

「あのなぁ・・・。お前ら、人の家を何だと思ってやがる・・・。」

「諦め、跡部。ここでやるか、跡部ん家でやるか。もちろん、跡部が1人で先に帰ってしもても、俺らが跡部ん家行くから。」

「・・・・・・はぁ。わかったよ。ただし、せっかく、あっちの部屋は掃除したんだ。ここだけにしろよ。」



そんな跡部部長の言葉に、皆さんは嬉しそうに声をあげ、着々と準備をし始めた。・・・日吉くんも何だかんだ言って、少しは楽しんでいるみたい。
私も嬉しくないわけはない。少しでも、跡部部長と居られるのだから。・・・でも、それも束の間なんだと考えると、どうしても心の底からは盛り上がれなかった。
そうして、ただ刻々と時間だけが過ぎていき、楽しめぬまま最後のチャンスが終わった。



「さ、もういいだろう。終わりだ。お前らは、さっさと掃除の続きでもしやがれ。」

「早ぇなー!もう、こんな時間かよ。さすがに掃除しなきゃ、マズイな。つーか、跡部。この辺の掃除はどうすんだよ?」

「それは、最初の分担が終わった奴がやればいい。どうせ、向日はさっきの掃除も終わってねぇんだろ?」

「うっ・・・。そうだけど・・・。」

「ちなみに、俺以外に終わった奴は?」



まだ沈んでいる私でも、今までの癖とでも言うのだろうか?とにかく、私はいつも通り、跡部部長の言葉に素早く返事をした。



「はい、終わりました。」

「・・・・・・って、だけかよ。お前ら、一体何やってやがったんだ・・・。まぁ、いい。俺とでやるから、お前らはさっきの続きをしとけよ。各自の担当が終わり次第、帰っていいからな。」

「跡部、優C〜!!んじゃ、再開、再開!ちゃんも、ありがとね!」



その後、皆さんが跡部部長と私に一言伝えてから、自分たちの分担の掃除を再開された。



「悪いな、。せっかく、早く終わってたのに、こっちまでやらせちまって・・・。」

「いえいえ!とんでもないです!!私はマネージャーですから、どんどん掃除します!」

「そうか・・・。」

「はい!それに・・・私も楽しかったので、片付けぐらいして当然です。」



たしかに、少しでも長く跡部部長と居られたのは嬉しい。今だって、こうやって2人で同じ仕事をしているのだと思うだけで、鼓動が高鳴る。
ただ、楽しいかと言われれば、そうじゃないと答えてしまう。・・・だって、やっぱり寂しいという気持ちの方が勝ってしまうから。
それでも、楽しくないとは言えなくて、私は微妙な笑顔で、そう答えた。・・・そんな嘘、跡部部長の前では無意味だとわかっていても。



「全然楽しそうな顔じゃねぇけどな。」

「そんなことないですよ〜。・・・ただ、やっぱり寂しいのは寂しいですから。そっちの気持ちが顔に出ちゃってるんですかね?」



私はあくまで、楽しそうに話を続けた。たとえ、無意味だとしても・・・・・・跡部部長には迷惑をかけたくないから。できる限り、信じてもらえそうな嘘を言い続けた。



「お前が寂しがって、どうする。お前は、日吉を見習った方がいいんじゃないのか?」

「ハハ、そうかもしれませんね。」



跡部部長も、そんな私の気持ちをわかってくださったのだろうか。適当に話を続けてくださった。私もそれに合わせて、楽しそうに話す。
・・・それらが嘘で飾られた会話だとしても、私にとっては、とても貴重なものだった。これからは、もう・・・・・・。



「それから、鳳と樺地にも見習ってもらわねぇとな。」

「そうなりますね。」



今、皆さんとは少し場所が離れている。おそらく、会話は聞こえていないだろう。こちらも、聞こえていないのだから。だったら・・・・・・跡部部長に、自分の気持ちを伝えることもできる。
・・・だけど、やっぱり、私には無理だった。跡部部長は、跡部部長。私のことなど、同じ部のマネージャーや後輩としてしか見ていらっしゃらないはず。伝えたとしても、その恋が実るとは思えない。
実らなくても、伝えればいい。・・・そんな風にも思えない。人気者の跡部部長には迷惑だろうから。
それに、跡部部長は私にとっても憧れの先輩。憧れは憧れ。早く諦めた方がいいに決まってる。



「・・・・・・まぁ、こんなもんでいいか。」

「そうですね。綺麗になったと思います。」

「よし、帰るか。」

「お疲れ様でした、跡部部長。」



さようなら、跡部部長。もう・・・話せる機会も無いでしょう。だから、私は諦めます。今は、そんなの無理だと思っているけれど、少しずつ時間をかけて・・・・・・。



「もう部長じゃねぇよ。」

「そう、ですね。では・・・お疲れ様でした、跡部先輩。」

「おう。もお疲れ。」



あぁ、これで、本当に部長とマネージャーという関係は失ってしまった。・・・なんて、落ち込んでしまっている私は、まだまだ跡部部長・・・じゃなかった、跡部先輩を諦め切れないんだろう。でも・・・いつか、必ず・・・・・・。それまでは、つらいけど・・・。せめて、それぐらいは頑張ろう。



「・・・?帰らねぇのか?」

「えっ!あ、えぇ・・・。そうですね。一応、皆さんのお手伝いをしようか、と。」

。俺の最後の部長命令を無視する気か?」

「え・・・?」

「俺はさっき、各自の担当が終わり次第帰っていいと言ったはずだ。」

「そうですけど・・・。やっぱり、先輩方を放っておいて帰るのは、マネージャーとして、どうかと思いまして・・・。」

「いいんだよ。最後は自分で締めくくらなきゃなんねぇんだ。だから、が手伝う必要はねぇよ。」

「でも・・・。」

、俺の言うことが聞けないのか?」



跡部先輩は、少し挑発的にそう仰った。・・・もう部長じゃないと仰ったのは、跡部先輩の方だというのに。こういうときは、部長の権力を取り戻されるなんて・・・都合がいいにも程がある。
だけど、これは私のために言ってくださっていることだ。それに、事実、私は跡部先輩の言うことに逆らえないし。



「わかりました。では、お言葉に甘えて帰らせていただきます。」

「それでいい。」

「ありがとうございます。」



私は帰る準備をしようと、自分の荷物の方へ歩こうとした。そしたら、跡部先輩に腕を掴まれ、呼び止められた。



。」

「は、はい・・・。」

「この後、時間あるか?」

「え、この後、ですか・・・?えぇっと・・・。特に予定は無いですけど・・・。」

「なら、少し付き合え。」

「・・・・・・はい。」



驚きと、跡部先輩に腕を掴まれているという恥ずかしさから、私は小さく返事した。それでも、跡部先輩は納得してくださったようで、私の腕を離された。さっきまで恥ずかしいと思っていたのに、やっぱり離されると少し寂しい・・・などと思ったのは束の間、今度は私の手を掴まれた。・・・つまり、これは、跡部先輩と手を繋いだ状態、だ。



「じゃ、帰るぞ。」

「えっ?!ちょ、ちょっと、待ってください・・・!」

「何だ?」



慌てた私の言葉にも、跡部先輩は至って普通に返事をなされた。そんな跡部先輩の態度に、私も何かを言い返す気力が無くなってしまった。・・・それに、この状態に跡部先輩が何も思っていらっしゃらないのなら、もう少しぐらい繋がせてもらおうかな、なんて思った。



「あの・・・。まだ荷物を持ってなかったので。」

「そうか。じゃ、荷物を持ったら帰るぞ。」

「はい。」



私が荷物を持つと、本当にそのまま部室のドアへ向かった。・・・えぇっと、手を繋いだまま、帰るなんてことは無いですよね??と思いつつ、あまり怪しまれないように平静を装って、皆さんに挨拶をした。



「それでは、お先に失礼します。お掃除、頑張ってください。お疲れ様でした。」

「お疲れー。」



皆さんも、自分たちの掃除に集中されているようで、こっちの様子には気付かれなかった。・・・よかった。とりあえず、部室を出て、私は跡部先輩の方を見た。



「あの、跡部先輩・・・。」

「そうだ、。荷物。」

「え?」

「荷物は俺が持つ。」

「いえ!そんな・・・。いいですよ!自分で持てますから。」

「いいから、貸せ。」

「・・・・・・・・・・・・。」

?」



また挑発的に仰られたけど、今度は聞かない。それに、今、私はそれ以上にこの手が気になるんだ・・・!



「その前に、跡部先輩。今から、どちらへ?」

「別に、場所は決めてねぇけど。」

「・・・?でも、さっき私に付き合え、って・・・。」

「あぁ。その用なら、別にここでも構わねぇしな。」

「そうなんですか?」

「一応、洒落た所の方がいいだろうとは思ってるがな。」

「??・・・とにかく、どこへ行くにしても、この状態は良くないんじゃないですか?」



今のこの、『手を繋いでいる状態』というのを、あらためて認識するようで、そう言うのは恥ずかしかった。でも、言わなければ、ずっと気にしたままだし・・・。跡部先輩は、こういうのを何とも思っていらっしゃらないのかもしれない。と言うか、ほぼ間違いなく、何とも思っていらっしゃらないだろう。おそらく、私が跡部先輩を好きだからこそ、意識しすぎているだけなんだ。
そうだとしても、私が気になってしまうのは、紛れもない事実。だから、言わないわけにはいかなかった。・・・言ったところで、こういうのを気にしていらっしゃらない跡部先輩に、私の言いたいことが伝わるのかは疑問だけれど。



「何がいけねぇんだ?」



・・・・・・ほら、やっぱり・・・。跡部先輩は何の意識もしていらっしゃらないみたいだ。と言うことはつまり、私のことも特に意識してはいらっしゃらない、ということだ。わかっていたこととは言え、実際に事実を突き付けられてしまうと、やっぱりショックが大きい。でも、ここでそんなことを言っているわけにもいかないし・・・。



「えぇっと・・・その。これって・・・手を繋いで、ますよね?」

「見ればわかるだろ。」

「そうなんですけど・・・。何か・・・変な誤解とか、されませんかね?」



確かに、跡部先輩と私じゃ釣り合わない。だから、変な誤解=付き合っているようには見えないだろう、残念ながら。ただ、そう見えないからこそ、どうして手を繋いでるんだって、周りに注目される。そして、私が責められる。そうすれば、跡部先輩にも迷惑がかかるから、今の内に跡部先輩にわかってほしい。



「・・・そうされたら、は困るのか?」

「い、いえ!そんなことないです・・・!!私は良いんですが、跡部先輩に迷惑がかかるかと・・・。」

「俺は気にしちゃいねぇよ、そんなこと。」



・・・ですよね。
やっぱり、私の言いたいことは伝わってないみたいだ・・・。



「あの・・・。跡部先輩が良くても、ですね。周りの方が不満に思われるんです。」

は周りが気になるからって、俺のことを諦めるつもりなのか?」

「え・・・・・・。あの・・・!えぇっ?!」



バ・・・、バ・・・、バレてる・・・?!!跡部先輩は、部員の様子をよく御存知の方だ。だからって、私の気持ちまで・・・?!し、しかも・・・わかっていらっしゃる上で、手を繋いでるって・・・。それって・・・。
あぁ、ヤバイ。バレてるという恥ずかしさと、もしかしたら・・・という期待とで、私の体温はどんどん上昇してくる。・・・顔が熱い。



「言っておくが、俺はそんなことで諦めたりはしねぇからな。俺が決めたことだ。周りが何と言おうと関係ねぇ。」

「あの・・・跡部先輩・・・。」



私の勘違いかもしれない。でも、そうなんじゃないかって考えは無くならなくて・・・。だから、ちゃんと確認をしようとしたら、・・・先に跡部先輩が仰った。



「わかったなら鞄貸せ。惚れた女に荷物持たせるほど、俺はつまんねぇ男じゃねぇんだよ。」



それは、その・・・、やっぱり、そうなんですよね?口調は相変わらずでいらっしゃったけれど、少し背けた顔は照れていらっしゃるように見えなくもなかったから、私も今回ばかりは素直に跡部先輩に従った。



「では・・・お願いします、跡部先輩。」

「この手も、このままだが・・・もう文句はねぇな?」

「はいっ!」



まだ恥ずかしさはある。それでも、今の私は嬉しいという気持ちが大きかったから、満面の笑みを跡部先輩に向けた。そんな私に対し、すっかり、いつもの調子に戻られた跡部先輩は、ニヤリとした笑みを浮かべられた。
その後、跡部先輩は『洒落た所』で言い直した方がいいかと尋ねられたけど、そんなの何処だって嬉しいのには変わらないから、私の家まで送っていただいただけだった。それでも、私にとっては充分すぎるものだ。何より、これからも跡部先輩との繋がりが無くならないことが嬉しい。ううん、より強い繋がりかもしれない。そう思うと、明日からの部活も今まで以上に頑張れそうだ。・・・鳳くんと樺地くんは、日吉くんと私を見習ってね、なんて思ってみたりして。













 

久々、跡部夢です!間に合って、良かった〜・・・(笑)。実はこの作品、別に誕生日だから書こうと思ったわけじゃなかったんですが、頑張れば間に合う!と思い、誕生日にアップしました。というわけで、誕生日とは全く関係の無い話でしたが、とにかく、おめでとうございます、跡部さん!

この話を書こうと思った、本当のきっかけは、夢だったんですね。夢の中で、昔好きだった人に手を繋がれて「これ・・・期待しちゃってもいいの・・・?!」みたいなドキドキを味わいまして・・・(笑)。それを作品にできないかなぁと思ったわけです。まぁ、私の書き方でそれが表現できてるかは微妙ですが・・・・;;
少なくとも、跡部さんという憧れの相手にすれば、より「期待しちゃっていいの?!」感が出るかなーと考え、久々の跡部さんでした。久々だったので、正直、口調が難しかったです・・・!(汗)

('08/10/04)